近々戦が起こる、との報告を受けて俺と組頭はとある城の内部調査を一緒に請け負った。
お互いにまだ小さい城だが、片方の城が武器や火薬の生産に意欲的に取り組んでいるようで、うちはその城を利用してやろうと考えてるらしい。
利用出来るものはとことん利用する、それがタソガレドキ城の方針だ。
命令を受けて俺と頭領は城に忍び込み、城主や兵士らの話に耳を立ててうまく内部に精通する情報も掴むことができた。これといって難しくもない、いたって普通の仕事であった。
仕事が終わるまではいたって普通、だった。気まぐれで自由人な馬鹿組頭が変なことに首をつっこむまでは、だ。

「組頭……なんですか、その後ろに連れているのは」
「なにって君、分からないのかい? 女の子だよ女の子」

組頭は常にマイペースだから、先程も城に帰る途中に声がするからと言って一人で勝手に姿を消したのだ。毎回のことだからと特に気にもせず、いなくなった場所で待つこと数分。
ようやく戻ってきたかと思いきや、なんと組頭は後ろに女を連れてきているではないか。それも見る限りでは歳も若く(俺よりも下だろうこれは)、見たこともないようなおかしな服を着ている。南蛮から来たか、貿易商の娘か何かか? にしても一体何故こんな場所に?

「なんだい、もっと喜ぶかと思ったのに」

組頭の声にはっとなり、そちらに顔を向けた。どうやら俺はずっと女の方を見ていたようだ。
外見の幼さやおかしな服装に色々と考えをつけていたもんだから、自然と目が姿を追っていたらしい。組頭には気づかれているだろうけど、あえてからかわずに茶化してくれたことには少し感謝するとしよう。

「喜ぶわけないでしょう! 犬や猫じゃあるまいし、それよりなんでこんな場所に」
「それにね。彼女、異界から来たんだって」
「…………は?」
「だから、異界。異世界とも言うのかな? とにかく彼女はここの場所も、何が起きているのかも、今日の日付さえ分からないのさ」

組頭がどう説明しようにも、まず俺には“異界”やら“異世界”などという言葉が信じられなかった。
そもそも別の世界など本当に存在するのか? というか組頭はその女が言うことを信じたというのか? あの組頭が? 次々に浮かんではまた新たに出てくる疑問に俺は頭を抱えたくなった。

「まあまあ部下くん。そんな堅苦しく考えないで。もっと気楽にいかないと将来頭が寂しくなるよ?」
「組頭っ! 俺は本気で」
『それにだよ』

普通に話している時に突然、組頭からの矢羽音がとんできた。これは後ろにいる女には聞こえてはいけないことだ、というのはすぐに分かった。

『こんな面白いことを言う子を、利用しない手はないじゃないか』

利用出来るものはとことん利用する、それはタソガレドキ城忍者隊の組頭にも共通して当てはまる理念だったようだ。

「……ほんとに連れてくんですか、こいつ」
「こいつじゃないよ、ちゃんていうんだって」
「…………世話は自分でしてくださいよ」
「やだなあ、彼女はれっきとした人間だよ? しつけや世話なんて最低限のことしか必要ないさ」

今まで何度も聞いてきた全くアテにならぬ言葉を聞き流しながら、俺はやっかいな拾いものをするやっかいな上司を持ったのだと改めて痛感したのだった。


君という異空間


「ほらほら自己紹介」
「…………諸泉昆奈門です」
「……こんなもん?」
「…………」