誰からどう思われようと関係ない、そう思っていた。 私がこの星月学園に入ることになった時、その頃はまだ“こんな風”ではなかった。 新しい環境で、新しい勉強――大好きな星について学べるということが、何よりも嬉しかった。 だからこそ初めて学園の敷地に足を踏み入れた時は、心が躍るあまりに軽くスキップしてしまうほど。それくらい、嬉しかったのだ。 しかしそれが、今ではどうか? あの頃の私はもういない。希望や喜びを噛み締めながら一歩一歩を確かな足で進んでいった、あの頃の私はもう、どこにもいない。 最初からこうなることなど、誰が望んでいただろうか。私だって人並みに友達も作りたかったし、遊んだりしてみたかった。 でも、私にはそれが出来なかった。ただ、それだけのことだ。 窓の外を覗けば、友人らと一緒に歩いたりはしゃいでいる光景がいくらでも見える。その中に私がいない、ただそれだけのことだ。 「俺だけじゃない。犬飼や白鳥や――それに夜久だって、」 「っ、一人で練習するのがそんなにいけない? そんなの私の勝手でしょ!」 同級生に、酷い八つ当たりをしてしまったことが、いまだに胸を燻らせている。 私がこの環境に馴染めないせいで、数少ない周囲の人たちに更に迷惑をかけてしまっている。そんなこと、私が一番分かっている。分かっている、のに。 「(……あ、)」 そんなことを考えているうちに、どうやら天文科の教室にまで来てしまったようだ。 放課後特有の喧騒の中、廊下で立ち話をしている人たちに見覚えもない。それに嫌でも目についてしまうのは、銀色の髪と茶色の髪を持つ二人組がいること。 目的があって来た訳ではないが、此処に来てしまったのは色々と都合が悪い。天文科の、あの二人組の近くにはいつだって―― 「錫也、哉太、お待たせ!」 彼女、夜久さんがいるんだから。 私の予感は的中。教室から出てきたのは、この星月学園でも滅多に見ることはない女子制服を身に纏った、学園のマドンナ様。 キラキラと輝かんばかりの眩しい笑顔を浮かべながら、彼女は二人の方へと歩み寄っていく。私とは何もかもが正反対の彼女。見ているだけで胸が締め付けられるようだ。 そのまま見ていても仕方ないし、彼女に見つかってしまっても面倒だと思い、私は急いで来た道を戻ろうとした。 「……あっ、さん!」 「え?」 「あぁ?」 振り返ろうとした時にはすでに遅く、私は彼女の目に留まってしまった。 こちらへと向かってくる足音も聞こえ、行くに行けない状況になった。 「珍しいね、さんが天文科に来るなんて。何か用事があったの?」 「……別に」 「あ、そうだ。今日は部活が休みでしょ。だから私と彼らとでこれからショッピングに行くの! 良かったらさんも一緒に行かない?」 無邪気に笑いかけてくる夜久さんと、それとは正反対に訝しげな表情や明らかに嫌そうな顔をしている後ろの二人に、私は心の底からため息をつきたくなった。 「私は、いいです。そんなに暇でもないし」 「あぁ!? んだよその態度、せっかく月子が誘ってんのによ!」 「落ち着け、哉太」 私があからさまに嫌な態度を取れば、夜久さんの後ろにいた銀髪の人が噛みつかんばかりの勢いで前に出てきた。そしてそれを抑えるように出てきた茶髪の人。 夜久さんを守るようにして出てきた二人はまるで、ボディガードのようだった。いや、お姫様を守る騎士と言った方が的確だろうか。そんなくだらないことを考えた自分に、ふっと自嘲めいた笑みが出た。 「てんめ、何笑ってやがる!」 「哉太、やめろって!」 「そうだよ哉太! ご、ごめんねさん。忙しいのに引きとめちゃって」 「……じゃあ私はこれで」 とにかくこんな場所からは一刻も早く立ち去りたかったので、そう言い捨てると私は踵を返して天文科から離れていく。 早足に廊下を進みながらも、私の頭の中ではさっきまでのやり取りが繰り返されていた。 いつ見ても一緒にいるあの3人の、私に対して向ける顔や言葉、そしてそれに対する自分の態度が、ぐるぐると回っていた。 |