可愛い人だなあ、と思う。一人前の忍者で、私たちの先生であるというのに、どこかいつも抜けている。
この間は道に迷い忍術学園の山田先生と迷子になっているか否かという意地の張り合いをしたというし、通販で買った商品がどれも使い道のないようなものなんてことはお約束だ。他の人からどれだけ注意を受けようとそれでも変な通販番組に変な商品を注文するから、今では諦めて何も言わない人もいたりする。
私はそんなところも全部ひっくるめて、可愛いなあと常々思うのだ。

「おーい、ー!」
「んー? なあにしぶ鬼」
「魔界之小路先生が呼んでるけど」
「っ!」

しぶ鬼が「まか」と発音した時点で、私の頭の中にはあの人の顔しか浮かんでこなかった。読んでいた本をしおりも挟まずに置き、彼の横を通り抜けて一目散に外に出た。「うわはやっ、裏の倉庫に来いだってー!」という声を遠くに感じながら、最初からそこへと向けていた足を更に速めた。
今日は午前にだけ授業があって、午後は休みになっている。しぶ鬼たちは街へと行くとか言ってたから、多分その途中で先生に私を呼んでくるように言われたのだろう。ドクタケの人たちも今日はどこかの城へ偵察だとか言ってピクニックへ行っているし、今ここにはほとんど人がいないの同然だ。それに更に人気の少ない裏の倉庫へ呼び出されるなんて……期待するなと言う方が無理な話である。
いつもはドクたまやドクタケ忍者に邪魔されているけれど、今日だけは先生を独り占めできる。そう考えるだけでだらしなく緩む頬に、自分の体は正直なんだと再認識した。
急げ急げ、と必死に地を蹴る足を動かしていると、やっと目的の場所が見えた。あ、いた。

「先生っ!!」
「おお、来てくれたか。ありがとう」
「いいえっ。それで先生、私に何かご用でしたか? お手伝いしますか?」
「あー……手伝いっちゃあ手伝いなんだけど……」

どこか言い難そうに、もじもじと指を絡めるのを見てまた「ああ可愛いなあ」と思った。今度は頬にしっかりと力を入れているから、先生にだらしない顔は見えていないはずだ。

「この倉庫にある、私が買った通販の商品が入ってるんだけど……、いくつかもらってくれないか?」
「えっ?」
「壊れているものもあるから、それを処分はしたいんだが……新品のものまで処分しろー! って言われてな、でもやっぱりもったいないから、あんまりうるさくないに協力してもらおうと思って……駄目かい?」

先生の後にある倉庫を見れば、開いた戸の向こうにはどれも見たことのある通販の商品だった。汚れて壊れているものもあれば、新品同様のものだってあるようだ。確かに、一度も使わずに捨ててしまうのはもったいないかもしれない。
まさか生徒に頼むなんて思わなかったんだろう、眉を下げ少し恥ずかしそうにしている先生を見て、私は愛おしさを感じた。そんなこと聞かなくたって、私の答えは始めから一つしかないのに。

「いいですよ! 実は少し気になっていたものもあったんです」
「本当か!? いやあが寛大でよかった!」
「でも今度は私にもカタログ見せてくださいね。先生におねだりしますから」
「ああ、もちろんだとも!」

それじゃあこれはどうだ?そう言って差し出してきた変な形の櫛を受け取り、承諾の意をこめてほほ笑んだ。それに気をよくした先生は、次はこれは、これはどうだろう、と次々と商品を勧めてきた。
子供のようにはしゃぐ姿を見て、やっぱり私はまた心のどこかで思うのだ。ああ、可愛いなあ、と。


(20090822)