SHRが終わるとすぐ、竹谷は私のところまでやってきて「アイス、食いにいこーぜ!」と帰り支度するのを急かしてきた。そんなにアイスを奢ってもらうのが嬉しいのか、とおかしく思いながらも私達は一緒に教室から出た。
学校から徒歩数分のところにあるコンビニへと入ると、涼しい空気が出迎えてくれた。夕方といえどじりじりと暑い道を歩いて火照った身体には、効き過ぎたくらいの冷房が丁度良かった。
中に入るなり、竹谷は一目散にアイス売り場へとかけつけて目を輝かせていた。高校生とは思えないくらいの無邪気さに、呆れのような微笑ましさのようなものを感じながら私も売り場へと向かう。

「ガリガリ君て言ったけど、なんでもいいよ」
「マジ!?」
「マジマジ」

どうせ自分も食べるつもりだったのだし、お礼なのに竹谷の方が安いというのは色々心苦しい。竹谷がこれまた真剣な顔つきでアイスを選び始めたから、私も並ぶアイスに目をやる。お気に入りのアイスがあれば迷うことなくそれを選ぶのだけれど、生憎今日は売り切れらしい。仕方なく他のアイスを見てみるも、これといって心引かれるものは見つけられなかった。あのみかんのアイスに勝てるアイスは、今のところ見つかってはいない。

「ちょっと雑誌見てるから、ゆっくり選んでよ」
「ん? もう決まったのか?」
「んーん。これといったのがなかったから、私はいいや」
「……ふーん」

竹谷が再び選び始めたのを横目に、私は近くにある雑誌コーナーから適当に本をとり、パラパラとそれを眺め始めた。最新のファッション事情やデートスポット、それら諸々の文字が見えたけれど、どれもつまらなく思えてしまった。昨日までの私なら興味津々に読んでいただろうその記事も、全然おもしろくも楽しくもなくなっていた。今日の出来事がどれほど、こんなのにも私の心を動かしたんだと改めて実感した。横でアイスを真剣に選んでいる、彼がいたから。

「よし! これにする!」
「おー決まった? じゃあ会け」
「これくださーい!」
「!?」

選んできたアイスを受け取って、私が会計をしてこようとしたのに。竹谷は自分でレジへとそれを持って行き、自分で会計を済ませてしまった。

「ちょっと竹谷!? なんで、」
「いーからいーから!」

ビニール袋には入れず、そのままアイスを手に持って竹谷は外へと出た。どうしようもないから、私もとりあえず続いて外に出る。同時に冷房天国からも出たことになり、また襲ってくる暑さにじんわりと汗が滲む。
ゴミ箱の前でなにやらゴソゴソとすると、小走りで竹谷がこちらへとやってくる。なんで買っちゃうの、と言おうと思い口を開きかけた。
――ポキッ

「ほら!」
「……え?」
「アイス。はんぶんこ、な!」

すぐに会計を済ませたものだから竹谷が何を買ったのか分からなかったけれど、今彼が差し出しているのは二つに分けられるアイスだった。それを割って、言うとおり半分の一本を私にくれるというのだ。

「私が奢るって言ったのに……」
「あーはやくはやく! 溶けるって!」

なんで奢られてるんだろう、と少し腑に落ちないままでいると受け取るようにと急かしてくるときた。渋々ながらそれを受け取ると、手から冷たさが伝わってくる。暑さのせいで少し溶けたのか、掴むと柔らかい。けれどこれが丁度いい食べごろだろう。

「コーヒー、大丈夫か?」
「別にこれも、好きだからいいけど……ほんとさ、なんでよ。私がお礼したかったのに」
「頑固だなは。礼されるようなことした覚えなんてないっつーの」
「(知られたらそれもそれで困るけどね……)」
「それよりも俺は」

早くもアイスに口をつけていて、それにつられて私もアイスの口を切った時だった。

とこうしてアイス食べられんのが、嬉しいんだよ」

そうやって竹谷は、また私に幸せを分けてくれるんだ。本当に、太陽のような男だと思う。照れくさくてそんなこと直接言えたものじゃないけれど。心の底からこみあげてくる嬉しさをおさえようと、私は照れ隠しにもならない皮肉交じりの言葉を口にした。

「……あーあっ、買ってくれるならダッツでもねだればよかったかなー」
「そりゃ無理だな。俺今財布に72円しかねーし」
「うわ、びんぼー」
「うっせー!」

そんな他愛もない話をしながら頬ばったアイスは、今まで食べてきた中でもとびっきり美味しく感じた。
口の中で溶けるコーヒー味のアイスはずっと忘れることのない、夏の味。


(20090806)